*その

(この物語は実際の作業工程を追ったものですが、登場人物とその会話は一部フィクションです。)


足回りがしっかりするとそれまで以上にエンジンの調子が気になる。

現状でもエンジンの掛かりは非常に良い。アイドリングもまあまあ。しかししばらく掛けていると不調になってくる。プラグを見ると4本の内の1〜2本がくすぶっている。プラグを替えてもう一度やってみるとまたくすぶる。しかも前とは違うプラグが・・・。

エンジン本体は3番が若干圧縮が低い。ヘッド周りをOHするか、せめてバルブのすり合わせだけでもしたいところ。しかし、3番のプラグだけがくすぶる訳じゃない。

点火系も怪しくない訳じゃないが、例えばコイルが不良の場合1番4番と2番3番というように症状が出るはず。ランダムにくすぶる場所が変るというのはちょっと考えにくい。プラグコード(中の銅線が錆びてる)とプラグキャップ(プラグのはめ込みがゆるい)は要交換。しかし、これが直接の原因では無さそう。

では原因は?もうキャブしか残っていない。
調べてみるとわずかにオーバーフローをしていて、しかもその場所が時により変る。珍しいトラブルだが原因はこれだ。フロートバルブを替えてOHすれば充分使えると思うけど・・・。さて、ケンジ君どうする?


「キャブをやれば良くなるかな?」「なるだろうけど、全部いっぺんにやった方が良いよ」「そうだろうけど・・・。とりあえずキャブだけでどうなるかやってみてよ」ハイハイ。


(とりあえず)キャブに取り掛かる。

「それじゃぁ、キャブを徹底的にOHしようか」「OHって幾らくらい掛かるの?」「そうだね、2万円くらいだね」「う〜ん、キャブ替えよう!」「エッ!」

ノーマルキャブをどんなにOHしてもノーマル。それじゃ面白くない。「だからCRキャブに替えようと思うんだけど」とケンジ君。
確かにケンジ君の言う事も分るけど・・・。

「セッティングが出るかな・・・」「大丈夫、セッティング済ってカタログに書いてあるよ」「でもね・・・」「それにしてもCRキャブって安くなったよね。昔は倍くらいしたんじゃなかった?」と、ケンジ君はすっかりやる気。昔、CRキャブで苦労したのを忘れちゃったの?

まあ、やる前からあれこれ心配してもしょうがない。それに勢いが付いちゃったケンジ君は誰にも止められない(?)。



ジャ〜ン!CRキャブだ!

キャブ入荷。いや〜、懐かしい形。最近はFCRが主流だが、それに比べるとCRのシンプルな事。
セッティング済とのことだが、セッティングデーターは?無い。説明書も勿論無い。こちらもシンプル。
現状のセッティングはMJ(メインジェット)#120、SJ(スロージェット)#60、ニードルのクリップ位置は上から2段目。
このセッティングで良いかどうかは付けて走ってみなくちゃ分らない。


キャブホルダーを交換。

写真のアイドリングのリモートアジャスターは別売り。
これは便利。

ファンネルは付属していた。

キャブを付ける前にキャブホルダーを交換。古いバイクでキャブを外した場合、大抵ゴムが硬くなっているからそのままだとエアーを吸う恐れが大きいので交換しておいた方が安全。
付けてみると「カッコいいじゃないか!」やっぱり古いバイクにはCRの方が似合う。
性能は勿論大切だが見た目も大切。とりあえず見た目は合格。

さて性能の方は?走らせてみよう。


キャブが目立つな〜

エンジンの掛かりは相変わらず良い。アイドリングはちょっとバラついている。試乗をしてみると、3千回転くらいまでは付きが悪いが(これはもともとのエンジンの性格でもある)、そこから上の加速は吸気音もすごくて大迫力!しかし、5〜6千回転くらいから上が回らない。「こりゃぁ、かなり濃いな」

どのくらい絞れば良いかはやってみないと分らないので、とりあえずMJを#115に。しかし、これではほとんど変わらないので#110に。これで乗ってみると何とか7千回転くらいまでは回るようになったが、まだ回転の上がりが遅い。そこでMJを#100に。これは良い感じで8千回転まで回るようになったが、今度は中速からの繋がりがイマイチに。それに3千以下のもたつきも何とかしたい。試しにニードルのクリップ位置を一段上げてみるとこれが全然ダメ。クリップは元に戻してSJを絞ることに。MJの絞り具合から見てSJも#55くらいでいけると思ったがこれでは薄すぎ、#60に戻す。
これでずいぶん良くなったが、ここで一つひらめいた。SJを#55にしてクリップ位置を上から3段にしたらどうだろう?
これが大正解!
低速域のもたつきも取れてトルクの谷も気にならず繋がり良く8千回転まで回る。
しかし、プラグの焼けで見ると少々濃い目の感じなので試しにMJを#98にしてみるがこれは良くなかった。回ることは回るがトルク感が薄くなる。MJは#100で決まり。プラグの焼けはセッティングの大事な目安ではあるが、大切なのは乗った時に良いかどうかということ。キャブセッティングはプラグの焼けを良くするのが目的じゃない。
キャブはこれでOKだな。

それにしても、文章で書くとほんの数行だが実際には1日掛かり。セッティングは時間が掛かる。


とりあえず一区切り?しかし・・・。

ケンジ君も試乗。どう?感想は?
「うん!バッチリ!昔乗ってたZ2よりも良い!」
考えてみればFX-1はZ2の改良型なんだから良くて当然なのかもしれない。人気は無いけどね。
「これでしばらく乗ってみるよ。気になるところが出たらその時にまた」

数日後、「調子良いよ!毎日乗ってる!」「そう、それは良かった。ちょっとプラグでも見ておこうか」
ん?この前見た時よりくすぶりぎみだな・・・。
「あんまり回してないからね」とケンジ君。「どのくらい回してる?」「普段はほとんど4〜5千。たまに7千くらい回すけど」「調子は良いんだよね?」「良いよ」

キャブはこれ以上絞らないほうが良いのは前回で分っている。しかし、プラグの焼けは段々悪くなってきている。ということは・・・。

「ケンジ君。点火系をやっておいた方が良さそうだね」


続きは*その6へ