*その

(この物語は実際の作業工程を追ったものですが、登場人物とその会話は一部フィクションです。)


ケンジ君からの電話はいつものように口調は明るいが、内容はちょっと深刻。

「ずーっと調子よく走っていたんだけど、ここ2〜3日エンジンの力が無くなった。1気筒死んでるみたい」
1気筒だけダメだとすると点火系が怪しいが、以前のノーマルキャブの時のようにオーバーフローの可能性もある。「見てみるから持ってこれる?」「取りに来てくれない?」ハイハイ。

で、持ってきて調べてみると3番シリンダーが燃えていない。プラグを見るとオイルが付着している!

ケンジ君、煙り吐いてなかった?
「そういえばエンジンを掛けた時にちょっと出てたかな?でもその時だけで走っている時は出てなかったよ」
う〜ん、典型的なオイル下がりの症状だ。バルブシールが逝きかけてるみたいだね。

「バルブシール交換って、ヘッドを下ろすの?」そうですよ。「だったらついでにオーバーホールしちゃおうか?」ヘッドの?「うん。このバイク20年は乗ってやろうと思うんだ。だから20万円掛けても1年1万円と考えれば安いもんだよ」確かにそういう計算になりますが・・・。

OK!それじゃエンジンをバラシて原因をハッキリさせて見積もりを出してみるよ。
「それから部品注文?」そうだよ。
「いや、それだとその間乗れなくなっちゃうから先に部品を取っちゃってよ。とりあえずプラグを替えておけば走るでしょ?」まあ、そうだけど。
「大丈夫だよ、ヘッド周りはバルブとガイドとシールを替えて、下はピストンリングくらいでいいかな」

でも、開けてみてからにした方がいいと思うけど・・・。
「大丈夫、大丈夫!」

ところが、大丈夫ではなかったんです・・・。


「前の持ち主は良く知ってる人なんだけど、このバイクは単なるアシで使ってたんだから、エンジンを開けたことなんか絶対ないはず」

このケンジ君の言葉を信じて、若干の不安はあったがOHに必要な部品を揃える。


部品が揃って、さてエンジンを開けてみましょう。


(まずはキャブとマフラーを外して)

(ヘッドカバーを外して)


(ん?何だ?カムホルダーのボルトが1本・・・)

(スタッドボルトに変わってる!!)

そして極め付けはこのボルト。何だか分かる?

どうやら前に開けた人がカムホルダーのネジ穴をなめて、1本は8ミリに広げてスタッドに、残りはこの手製のスペシャル(?)ボルトに替えたみたい。
このボルト、ノーマルのボルトを削って叩いて先のほうが7ミリ位に広がっている。
これを本来6ミリの崩れたネジ穴に無理やりねじ込んであった。

こりゃスゴすぎる!しかし無茶するな〜。

本来はヘリサートを使って新しいネジ穴を作るのが正しいやりかた。
今ならこういう便利な物が手に入るが、昔は無かった?
そんなことはないな・・・。

ヘリサートって一般名詞だと思ってたけど商品名なんだってね。

これは商品名「スプリュー」

それにしても「エンジン開けたことなんか絶対無い」んじゃなかったの?

これは先が思いやられるなぁ・・・。


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